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POPってご存じですか。
八百屋さんの「トマト!激安リコピン!〇〇円!」とか、洋服屋さんの「半額に値下げしました!」みたいなことが書いてあるあの紙。
本屋でいうと、ときどき本と本の間にぶっさしてあるA6くらいのあの紙。
本を取る時にジャマになったり、
角が当たって痛かったり(すみません・・なるべく丸く加工します・・)、
台風の後の案山子のように倒れているけれど、肝心の本はみあたらなかったりする、あのPOP 。
今回は、書店員として培ってきたPOPの書き方を伝授したい!・・というわけではない。
長年書店員を務めてはきたような気もするが、残念ながら人様に教えるようなレベルのものはなにも培ってはいない(泣)
今回紹介する本を読んで初めて知ることが大変多かったという、今なおPOP一年生のわたくしである。
しかし、勉強はしていないくせに、POPについて日々いろいろと思っていることはあったりする。
それらのちょっと思う事を書いたのちに、POP一年生だけでなく、2年生や3年生にも役に立つ今回の本を紹介したいと思う。
「おめえの与太話はいいから、早く本の紹介をしたまえ」という方はこちら。
本屋のPOPあるある。
本屋のPOPについて、一番こころに止めておかなければならい、と思うのは
「お客様が本屋に来るのはどうしてか」というこではないだろうか。
別に書店員に会いに来るわけではないし(たまにいらっしゃるけど)
書店員をストーカーしに来るわけでもない(たまにいらっしゃるけど)。
誰もが「自分にとって必要」な本との出会いを求めて店に来られるのだ。
自分の役に立つ本。
自分を喜ばせてくれる本。
自分を感動させてくれる本。
自分が学べる本。
書店は、お客様が相応しい本との出会いを果たすための出会い系サイト(場所)であり、
書店員はマッチングを手助けする黒子である。
なので、書店員がPOPを書くという作業は
ここにいい子いてまっせ~
とか、
ちょっとちょっと、ちゃんとよくみてみなはれ。一見地味ですけど中身は予想外でっせ。
という、呼び込みの役目を果たすことだ。
なんか例えに品性が感じられないが、
POPの役割とは、お客様が気づいていない、お客様にとって有意義なその本の情報を提供することにある、と言えるのではないだろうか。
ちなみに、書店でよくみかけるPOPのパターンはこんな感じ。
①背中押します系:やっぱりねPOP。
例えば下記のような文庫が平台にあったとする。
ちなみに「平台」とは棚の手前の本が積んである平面の台のことであり、
たまに子供がお尻を乗せて座っているところである・・・・(泣)
・・おしりが腫れるからやめようね、ぼうや。そして注意しようね、隣にいるお母さん・・。
タイトル:「10年後にはこの星から消えている君と」
表紙デザイン:ブルー基調の少女漫画風パステルタッチ。笑顔の女の子とそれを見つめる男の子。空には星。
背表紙のあらすじ:心に傷を負った少年は、自分の余命を知っても明るく生きる少女に出会い、生きる意味をみいだしてうんたらかんたら。
そしてその本についているPOPに
号泣!一生分の涙が出ました。読み終わった後、一日一日を大切に生きようという気持ちになります。
的なことが書いてあったとする。
この場合はおそらく、お客さんがその本を見たときの最初の印象と、ほぼ同じと思われる。
あー、やっぱりそういう感じの作品なんだ。
POPを読む前と読んだ後の印象に、大きな違いは生まれないため意外性はない。
けれど、泣ける本を探していた人にとっては「泣きました!」の一言が、その本を手に取るきっかけになるかもしれない。
②意外性:えっ、そうなの⁉POP。
例えばこんな本が小説コーナーの平台にあったとする。
ちなみに、平台とは、子供が雨に濡れた靴のまま乗り、棚の上の本を取ろうとして踏み荒らすところである・・。
・・・・ほほえましい顔で孫を眺めていないで、注意しようね、おじいちゃん・・(泣)
タイトル:痣
サブタイトル:秘密とともに生きる刑事・警視庁捜査一課 板井押利
表紙:夜の高層ビルの写真。ダークな色調の装丁。
それを見た、コメディ好きのある女性は、
わたし、こういうハードボイルドには興味ないし・・。
と、通り過ぎようとする。
しかしその瞬間、POPが叫ぶ。
ちょっと待って!よく見て!
タイトル、「痣」(アザ)じゃなくて「痔」(ジ)だよ!
えっ・・・・。痔(じ)⁉
ハードボイルドな表紙に、「痔」という文字が赤々と浮かび上がっていたとしたら、
果たしてそのままスルーできるでしょうか。
ちょっとまって・・タイトルの字が赤い意味、違ってくるんだけど。。
ていうか、秘密とともに生きるって、そういう意味⁉
とりあえずは手に取ってみたくはならないでしょうか。
そして、その背表紙のあらすじに〝ハードボイルドコメディ〟と書かれていたら。
おもわず読みたくなっちゃわないでしょうか。
初見の表紙から受けた印象からは想像できない内容を伝え、そのギャップによってお客さんの興味を引きつける。
それでもし買ってもらえたとしたら、黒子の面目躍如である。(実際にはそんな本ねえよ!というツッコミは置いときまして・・・)
③承認欲求型POP
昨今では本屋大賞やコミック大賞など、書店員の投票で決まるとされている賞が人気である。
芥川賞や直木賞などのプロが選んだものより、書店員というお客様と近い立場にいる人間が選んだものの方が、親しみやすく読みやすい、という理由だそうだ。
ちなみに、このような賞はすべての書店員が投票している、と思っている方もいらっしゃるかもしれないが、実はそういうわけではない。
「自ら選考委員に応募した書店員たち」だけが投票するシステムとなっている。
ちなみに最近、やたらと「書店員イチオシ!」とか「〇〇書店の担当者太鼓判」みたいなことが書いてある「帯」が増えてきた印象があるけれども、
もしかして、本屋大賞の成功をみて
とりあえず、書店員にイイネさせとけばいけるんじゃね?
ということになっているのだろうか・・。
(※ちなみに「帯」とは、本の表紙の下の方に巻いてある細長い紙で、本を開くと外れて邪魔になったりして、邪魔になったついでに栞にすっか、で落ち着くあれですね。)
さて、POPに話を戻すと、最近賞を取った本に、このようなPOPが付いてたとする。
この作品が大賞を受賞しました!ずっと前から推していた作品です!
選考委員として、一票を入れました!
お客さんと本をマッチングさせる黒子が突然
ぼく!ぼくが声かけたんですよこの子!ぼくスゴクないですか⁉
と顔出ししてきたようなビックリ感。
これを承認欲求型POPと名付けてみた。
もしかしたら、同じようにその作品を推していたお客さんと盛り上がる可能性はあるし、POPを書いた人が超有名なインフルエンサーとかだったら効果はあるかもしれない。
けれど、本の紹介というより自分の紹介になってしまっている点では、POPの基本目的「お客様に有益な情報を提供する」からはちょっと外れてしまっている。
イイネって おしてる自分が 一番イイネ。
承認欲求を満たすのは、POPではなくインスタで。
除外編
ちなみに、商品を販売するときの宣伝方法として二通りあるとよく言われる。
「興味をそそる方法」と「恐怖をあおる」方法である。
恐怖をあおる方法のことをフェア・アピールというそうなのだが、例えば、
え、まだこれ知らないの!?
とか、
遅れてる~。ヤバいよそれ
みたいな感じで、お客さんの気持ちを焦らせて購入させる方法のことらしい。
この手法は効果があるということで、あらゆる広告媒体で利用されているが、
しかし、中には
・・・なんか、そんな風にあおられると逆に絶対買いたくナイ。
と思うヒネクレ者(わたし)もいるので、この手法はPOPにはあまりおススメできない。
必要なのは、キレイじゃなくて伝わること。
以前、とある出版社の方が「ぼく、字が汚いんでPOPとか苦手なんですよ」といった時に
あ、でもPOPの文字は汚い方が、お客さんの目にとまるらしいですよ!
と励ました書店員がいたらしい。
・・・「励ました」・・って・・
「汚い字の方が」ってあんた・・・
失礼極まりないKY発言。
いったいどこのどいつだその書店員は!
・・・・
わたしでした。
本の表紙は当然、印刷された活字なわけで・・・それらが並んでいる中に手書きの個性的な文字があると、お客様にとってはインパクトがあるわけで・・・ただ、そういうことが言いたかったわけで・・・とうさん・・・。
・・・ほんと、その節は大変失礼いたしました。
このように、字が下手だから、とか、絵心ないから・・という理由でPOPを書きたがらない人は結構多いが、
POPは字がきれいだったり、絵がきれいだったりすることより、一番大事なのは読んだ人に「何が伝わるか」だという。
その、伝わるPOPの書き方がわからないんです・・
という人にお勧めなのが、この本。
【山口茂「POP1年生」すばる舎】
今回 紹介の本
以前、カリスマ書店員のPOPの本を読んだことがあったのだけれど、
これが俺のPOPだ!
という「俺感」が強くてちょっと抵抗感があり、
以前、POP講習会というのにも参加したことがあったが
これが俺のPOPの書き方。いう通りにしろ。
という、俺感がこれまた強くて正直「POPに自信がある人(男性)」には苦手意識があった(笑)
しかしこの本は、POPの学校の校長である山口茂氏と
生徒であったホッターこと堀田さんという女性の実体験とで構成されているため、「俺感」はいっさいない(笑)
むしろほとんどのページが、ホッターさんによるワカラナイコトガワカラナイ状態からの成長の過程の記録のため、同じようにPOP作成で悩んでいる人にとってはとても共感がしやすくなっている。
何がわからないのか
どこでつまずくのか、
どんな失敗をしがちで、
でも、POPを書くことの喜びは何なのか
POPに取り組み始めた人がそれぞれの段階で迷うことは、ほぼホッターさんが経験済み。なので同じ仲間、頼れる先輩に聞く感じでページをめくることができる。
また、見開き半ページの上段がPOP風イラスト、下段に説明という見やすい構造になっているのも、コミックエッセイ的な感じで読めるのでとっつきやすい。
山口氏によると、POPで大切なこととはやはりお客様に「どのようにメリットを提供できるか」ということだという。
そして、メリットを提供するPOPを書くのに必要なのが、次の3つの「コト情報」だそう。
1・価値がわかるコト
2・役に立つコト
3・ワクワクするコト
では、どんなPOPなら売れるのか?
それは次の3つを書くことです。1・お客様の知りたいコトを書く
「POP一年生」P169
2・お客様の知らなかったコトを書く
3・お客様の興味、関心のあるこコトを書く。
泣ける本を探しているんだけど、この本て、泣けるの?
お客様の知りたいコト。
ええ~!ハードボイルド小説だと思ったら、コメディなんだ!
お客様の知らなかったコト。
これ、自分が推してた本です!
お客様の興味・関心のあるコト、ではない。
という感じでしょうか。
そして、この本は大きく
・POPの考え方
・POPの伝え方
・POPのつくり方
という構成になっているのだが、私が個人的にとても重宝したのが「POPのつくり方」だ。
今まで自分がPOPを書くにあたって、
そういえば、実はずっともやもやしていた・・
ということへの答えが詰まっていたのだ!
その部分だけちょっと紹介。
お困りポイント① 紙選び
POPをつくるとして、まず最初に迷うのが紙選び。
ベースとなる紙を何色の紙を使ったらいいか色に迷う。「好きな色でいい」という呪いの中でおぼれてしまうのだ。
黄色を使ってみたり、ピンクを使ってみたり、その時々の本に合わせて選んだつもりだが、出来上がってみたらなんだか店内がまとまりのない感じに・・(泣)
そんな人へは、
迷ったら白、一択です!
白でいいのか・・・!
白は結局、いちばん文字が読みやすく、色のカスタマイズもしやすいのだ。
お困りポイント② ペンの色選び
ただ、シロウトはここでも「白だとちょっと地味な感じだから、いろんなペンの色を使って明るい感じにして・・・」とこねくり回した結果、またもやごちゃごちゃとしてまとまらない感じに・・(泣)
色は3色でいいです!
①一つの色でPOPの縁取り。
②黒で文字を書いて、
③強調したいところを赤で線を引きましょう!
・・・確かに・・。それだけで、めちゃめちゃらしくなった。。。!
お困りポイント③ あたし・・もっと字、キレイだったはずなのに・・・
あともうひとつ困っているんですけど先輩・・。文字をきれいに書いているつもりなのに、なんか仕上がってみると読みづらい気がするんです・・
POPを書くときは、いつもよりゆっくり書きましょう!
スピード・・!
その着眼点はなかった・・。
たしかに通常の書き物と同じスピードで書くと字が流れてしまう。それが「POPらしさ」を奪っていたのか・・。
お困りポイント④ ミス
そして個人的に一番の目からうろこお気に入りページはP186「文字がハミ出した時の裏技」だ。
よくあるのが、一行に収めるつもりの文が収まらない(汗)
だんだん右に行くにつれ、「あっ・・、なんか入らないかも・・」と気付いてだんだん字が小さくなっていくという尻すぼみ状態。竜頭蛇尾か。意味が違うか。
左側は余裕があるのに右側だけギッチギチ、といういかにもアンパランスな感じに。
かといって2行に分けて書くほどの文字数でもない。あと2文字・・2文字なのよ・・(泣)
どぎゃんしたらよかですか…(泣)と思っているうちにだんだんと嫌気がさしてきて
ええい!やりなおしじゃ!
と、結構時間をかけて書いたPOPをぐしゃぐしゃと丸めてゴミ箱へポイ。
ということを数回繰り返す、ということをいつも繰り返す。(泣)
いったい、これで何枚の紙を無駄にしたことか・・
時間も資源も無駄にして、最終的にやる気もなくなるという無限ループ。
そういうストレスもPOPを書こうと思う際に気が乗らない理由だったりするのだが、
ホッターさんはこういう
文字がはみ出しそうだったら
継ぎ足せばいいんです!
いいのお~~~⁉
そんな秘伝のタレみたいな感じでいいんですか⁉
横幅が足りなくなったら横に、誤字がみつかったら上に、つぎたしちゃえばそれでOK。
なんだか気が楽になりました。このおおらかな感じがなんとも素敵です。
POPは結局楽しい
山口氏もホッターさんも、くりかえしおっしゃっているのはやはり、売れるPOP、お客様にとって役に立つPOPを書くためには「勉強」が必要ということ。
当然、紹介する商品にたいして知識がなければいけないし、お客様の気持ちを理解するには、日々の業務の中でお客様の言動を注意深く観察していなければならない。
なんか大変そう・・。
でも自分が好きな〝推し〟については、人に熱弁をふるいたくなるもの。
それが楽しくてしょうがないもの。
自分が扱っている商品を興味がないまま売るより「これ、良さをわかってほしい!」という気持で売る方が、絶対に仕事の楽しさは違ってくるはず。
その楽しさの発露としての最終形態がPOPなのかも。
POPとは、お客様にとって役に立つだけではなく、働く人にとってもその関わっている仕事と自分を深く結びつけるためのツールなのだ。
そうはいっても、入り口からそんな難しいこと言われてもやる気が・・という方。
まずはこの本の最後の方の「センスはなくてもPOPは書ける!」P248~253を見てください。正直、この6ページページをみただけで、初心者でもPOPらしいPOPが書けちゃいます(笑)
そして、日々のPOP作成をしていく中で迷った時に、必要なページをめくって確かめる。
傍らに置いて、そんな風に使うのに最適な一冊です。
お店の事務所にぜひ一冊。