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地味の女王 【柘植文著「 野田ともうします」講談社】
主人公の野田さんは埼玉にある東京平成大学というFランク大に通っている。
眼鏡をかけ、一つに束ねた髪を三つ編みにし「それ、いったいどこで買った?」という服を着てロシア文学科に通う、読書好きの女子大生だ。
独特の雰囲気を醸し出しているため、周囲のパリピな大学生の中ではかなり浮いている。嘲笑交じりにからかわれることもしょっちゅうだが、本人は全く気にすることなく、オウムを飼うかどうかを迷ったり、ドフトエフスキー「罪と罰」を読む喜びにうちふるえたり、カッコいい土下座について考えたりと、わが道を謳歌して生きている。
そしてそんな野田さんを好きな仲間もたくさんる。
無口だが心の中はかなり辛辣な大金持ちの娘、重松さん。
パリピの仲間なのになぜか野田さんと馬が合う、山本君。
手影絵サークルの部長三木本をはじめとする先輩たちや、バイト先の同僚たち。
いろいろとちょっと残念な、だからこそ親近感を覚える登場人物たちと繰り広げられる野田ワールドの日常は、変わってるけれども妙に居心地のいい空気感であふれている。
さて、その「野田ともうします」のエピソードの中で一番印象に残っているシーンといえばこちら。
山本君はバイト先の女の子といい感じになっている。女の子が自分に気があるようなのだが、一つ問題が浮上していた。野田さんだ。
山本君はいつも野田さんのことを話題にする。「野田がこんなことをしてね」「野田があんなことを言ってね」と、面白エピソードを話して聞かせているのだが、当然その女の子は、山本君がその野田さんという子のことを好きなのではないかと疑う。
山本君はその疑念を晴らすために、野田さんをバイト先に来てもらうことに。野田さんを実際に見てもらえれば恋愛対象ではないということがわかってもらえるはずだからだ。(失礼)
さて、当日野田さんはサークルの先輩たちとやってきた。山本君の作戦通り、コンビニで夏目漱石の坊ちゃんについて熱弁をふるうなど奇行をみせる野田さん。山本君は女の子の誤解が解けただろうと喜ぶのだが、野田さんを見たその女の子が放った言葉に、山本君の彼女への恋愛感情は一瞬で消え去ってしまう・・。
はたしてその言葉は何だったのか。
そのコンビニの帰り道の部長三木本の一言。
野田エキスとかけると 人間の中身がみえるねー
「野田ともうします」3巻 P29
その言葉の意味とは。
美の女王 【獅子著「メンタル強め美女白川さん」KADOKAWA 】
さて、次は野田さんとは真逆の イケてる人生を送っている白川さん。
小さいころから可愛くてキラキラしていて、男性陣からの賞賛と好意を一身に受けて生きてきた女子だ。
おしゃれやコスメが大好き。いつもニコニコと愛想を忘れない。
そのため他の女子からは誤解されてしまうことも多いが、白川さんはチャラチャラした軽薄な美女ではない。
綺麗でいるのは、そのほうが自分も人も気持ちがいいから。
ニコニコしているのはそのほうが自分も人も気持ちがいいから。
仕事だって言い訳せずにちゃんと頑張るしっかり女子だ。
しかし、いつもニコニコしている白川さんだが、ある状況の時だけ少し眉がより、ちょっと厳しい顔になる。
バックの背景もキラキラからどんよりバージョンに。それはどんな時か。
例えば、学生のころイケテナイ男子が白川さんにした告白を、「身の程知らずだ」と嘲笑ったクラスメイトにたいして。
例えば、職場のぽっちゃり体形の女性のことを嘲笑った男性社員に対して。
そう、白川さんは人が人を嘲笑うことに対して、はっきりと嫌悪感を示す。
そして、それに対抗すべく行動も起こす、かっこいい女子なのだ。
作者への信頼なしに娯楽なし
まったく共通点がないように思えるこの2つの作品、二人の主人公だが、なぜか私の頭の中ではカッコでくくると同類項になる。それはなぜなのか。
人というものを、視野の狭さや思いやりの欠落によって差別するものへのNOの意思。
人間存在への肯定だ。
え~、そんな難しいこと関係なくない~?コミックなんだから。単純に楽しむだけでいいんじゃないの?
そういう声も聞こえてきそうだけれども、気楽に楽しむためには逆に作者への信頼は不可欠なのだ。
時々、すごく楽しんで読んでいたのに、本筋のストーリーの部分ではない、ちょっとしたところで、著者の差別的な価値観がチラ見えするるときがある。多分、著者本人も意識していないようなところで。
人の本質は無意識の言動にあらわれる。
それがみえてしまうと、もう100%の気持ちで楽しむことができなくなってしまう。
作者に心を預けられなくなってしまうのだ。気難しいですか。
気難しくてすまん!
声高に叫ぶのではなく、
野田さんのように、マイペースに楽しむことで、
白川さんのように自分の信念を明るく貫くことで。
楽しみながら、この世界を肯定していきていく。そんな作品は安心して楽しめる大切な娯楽作品なのである。
もしこの二人が出会ったら、きっと仲良くなるだろう。
「あの二人、全然似合わないのに、なんでつるんでるのかしら」なんてことを言うガヤなど気にすることなく、きっと、楽しんで日々を生きるのだろう。
素敵な女性たちのお話です。