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本のタイトルは覚え間違いや思い込みが発生しやすい危険地帯だ。
「バーバパパ」を「バーバババ」だとずっと思ってた人はきっと世の中に3人くらいいると思う。(そのうちの1人はここにいる。。)
お客様の脳内で変換されたタイトルを、正式なタイトルへと再変換する技術が書店員にはいるのだが、
図書館の司書さんたちも、同じ技術を日々磨いていらっしゃるようだ。
問い合わせというより、なぞなぞ。
ちなみに、ときには覚え違いやうろ覚えという次元を超えてこられる方もいらっしゃる。
ある日も年配の女性の方が声をかけてこられた。
本を探してるんだけど
はい!本の題名などはおわかりですか?
※ 題名はねえ、わからないんだけど、2.3日前にテレビでやってたのよ。
そうなんですね・・。書かれた人の名まえは・・
なんだったかしらねえ・・女の人でね。
女性なのですね・・どの番組で紹介されて・・
どの番組だったかしら・・
・・NHKとか・・・
どうだったかしらねえ・・。とにかく2・3日前なのよ
・・・・例えば、どんな内容の本だったでしょうか。料理の本とか、エッセイとか・・。
料理じゃなくてね。とにかくいろいろなことについて書いてあるらしいのよ、女の人でねえ。
なるほど。えっと・・・・
どないせえっちゅうねん・・という言葉が思わずのどもとまで出てきそうになるわけなのだが、
実はこうなるとむしろ内心、ワクワクしている。
なぜなら、これからが書店員としての腕の見せどころ。
謎が深いほど、何が何でもこの本を突き止めたい・・!という意地が私の血を熱くさせるからだ。
それでは奥さん、お聞きします。その本のタイトルに、一文字でも「この字があった」と記憶しているものはないでしょうか?または著者の方の名まえにこの文字があったでもいいのですが。番組は朝方でしたか?お昼ですか夜ですか?その番組には他に誰が出ていましたか?著者の女性は年齢は?ほかにどのようなことを書いたと言っていましたか?
とにかく仕入れたキーワードを片っ端から、本の検索サイトのみならず、Google先生にぶちこんで・・入力して検索しまくる。
がんばれGoogle先生。
がんばれお客様。
かんばれわたし。
そして、検索しまくった結果、お客様が探している本にヒットしたときの喜びはもう、ひとしおである。
喜ぶお客様の横で、私の脳内にはロッキーのテーマとともにガッツポーズをする自分がいる。
エイドリアーン!
あ、それでもうひとつ探してほしいのがあるんだけどね。
は・・ハイッ・・!どのような本でしょう!(※にもどる)
本をお尋ねの時には「忙しいところ悪いんだけれど・・」と恐縮される方が多いのですが、私は気軽にじゃんじゃん聞いてほしいと思っております。
【福井県立図書館「100万回死んだねこ 覚え間違いタイトル集」講談社】
福井県立図書館のレファレンスサービスにおいてタイトルを「覚え違い」をしているお客様と、司書の人とのやり取りをまとめた本がこちら。
レファレンスサービスは、司書が図書館の資料を用いて利用者の皆さんの調査・研究をお手伝いすることです。(中略)学術的な問い合わせに限らず、身近な事柄に関する調べものももちろん対象にしています。
「100万回死んだねこ」P172
その「レファレンスサービス」で一番多いのが、やはり所蔵の本に関する問い合わせとのこと。
お客様が「覚え違い」や「うろ覚え」で伝えるタイトルから、正確な本を探し当てていくプロフェッショナルな仕事ぶりが、イラスト付きで面白く紹介されている。
覚え違いの内容はWEB上で一覧にしているのだそうだが、もちろん面白問答集をつくるために記録しているわけではない。
そのような利用者さんからの問い合わせ内容を情報共有することで、図書館におけるサービスの向上を図ろうという試みなのだそうだ。
とはいえ、目次をざっとみただけでも面白そう。
大ャンル(太字部分)ごとに10個から20個ほどの事例が挙げられているのだが、抜粋してみると以下の通り。
夏目漱石 僕ちゃん。 おしい!
摂氏451度。 それはタイヘン!
人生が片付くときめきの魔法。 気持ちはわかるけど・・
八月の蝉 角田和代 ん?
ハーメルンの音楽隊 なんかまざってます!
上記のタイトル、間違いに気づくことはできたでしょうかw
では、数ある中から私の個人的な上位3点をご紹介。
ジワるで賞
Q:『家康 家を建てる』という本を探しているんですが・・・
A:『家康、江戸を建てる』ですね。
「100万回死んだねこ」P104
ちょっと小さくまとまっちゃいましたね。家康ならせめて城にしてほしいところです。江戸という都市がどのようにつくりあげられたか、複数の世代にまたがって描いた連作短編集です。
家康、家を建てる・・・。
なんかさらっと流してしまいそうだけど、時間がたつほどジワジワくるおかしみが。。
まあ、家も建てただろうけれども・・w
ひどいで賞
Q:ウサギのできそこないが2匹でてくる絵本なんだけど・・
A:『ぐりとぐら』のことでしょうか。
「100万回死んだねこ」P139~140
名作絵本に対して、もうちょっといい言い方はなかったでしょうか・・・?ぐりとぐらは「お料理することと食べることが何より好きな野ねずみ」です。絵本で言うなら「リサとガスパール」は耳が長いので、〝ウサギの~〟と覚えられていても納得感があります。気の毒な言われようであることは変わりませんが・・・。リサとガスパールはウサギでも犬でもない、架空の動物です。
すでにもう絵本界の権威とすらいえる「ぐりとぐら」に対して、まったくおもねることのない素直な(?)言いぐさw
そういわれてみれば・・・とか思って改めて見直したけど、ちゃんとネズミに見えますよ?w
シュールで賞
Q:『痔』ある?
A:『痣(あざ)』ですかね、きっと。
「100万回死んだねこ」p48
切羽詰まり具合が違ってきますね。提供いただいた事例でして、お父様が間違って記したメモを投降者に渡し、おつかいを頼んだのだそうです。警察小説を頼んだはずが医療本を借りて帰られたら、お父様はびっくりされたことでしょう。それにしても、手書きの機会が減っている今、「痔」が書けるのはすごいです。
ハードボイルドな雰囲気の装丁にでっかく一文字「痔」というタイトルがついていたら、シュールというかなんというか・・。
ストーリーが気になって仕方ないですw
おしり探偵?
図書館は民主主義の砦
楽しく読んで最後の「そもそもレファレンスって?司書の仕事って?」というあとがきのようなページの、上記タイトルの部分を読んだときに、はっとした。
日本はいい国だな・・と思う瞬間は皆さんはいつだろう。
わたしの場合は公共の図書館に
ヒトラーの「わが闘争」も
マルクスの「資本論」も
普通に置いてある、という事実を思う時だ。
もちろん(?)どちらもちゃんとは読んだことはナイし、おそらくこの先も読まないような気がするけれども、
でも、
もし、あなたがこの本の読みたいと思ったときは、いつでもどうぞ。
と、公にサポートされている、というこのすごさ。
これを、空気があるのと同じように、何の努力もなくそこにある自由だと思っていたら、
いつのまにかそれは、血を流して勝ち取らなければならない遠いものとなってしまう可能性もあるのだということは、2022年3月現在、世界で起こっていることをみれば容易に想像ができる。
自由にものが言えるのも、自由に本が読めるのも、「当たり前」ではないのだ。
司書課程の先生が言った、「図書館は民主主義の砦なんです」
(略)
「100万回死んだねこ」P184~185
『講義はいつも、「図書館は民主主義の砦なんです」という一言から始まりました。「住民はいつでも誰でも無料で情報にアクセスできる。それを保証するのが図書館です。だから図書館は民主主義の砦なんです』
そんな「砦」のない社会。そんな社会は考えただけでもゾッとする。
なので、図書館も書店も大いに活用してほしいと思う。
皆がそれを必要とすることが、その「砦」を守ることになるのだから。
そしてうろ覚えでも何でもいいので、じゃんじゃん問い合わせをしてほしいと思う。
一緒に探し当てていくその過程がまた、書店員も(たぶん司書さんも)楽しいひと時なのだから。